航空自衛官の元カレの偽装婚約者になりました
「悠翔さんの列だけすごく長くない?」
「だよね」
うんうんとうなずく。
たしかに彼の前にはたくさんの人たちが並んでいて、見る限りでは圧倒的に女性の方が多い。
「悠翔さんかっこいいから人気なんだな」
羽琉が納得するように呟いた。そのあとで私の肩を小突いてくる。
「姉ちゃん、いいのよか。悠翔さん取られちゃうぞ~」
「なっ……別に私たちもうそういう関係じゃないし」
取られるもなにも悠翔は私のものではない。それなのに、女性と写真を撮る彼を見て胸がぎゅっと切なくなる。
展示飛行を見にきたファンのためのサービスだとわかっていても、女性たちに笑顔を向ける悠翔は見たくない。
彼への想いは諦めると決めたはずなのに、もやもやとした嫉妬のような感情が胸の中でじわじわと広がっていく。
そのとき、少し離れた場所に立っているひとりの女性がふと目に入った。
「あの人……」
悠翔の上官の娘だと嘘をついた愛梨さんだ。
彼女も航空祭に来ていたようだ。悠翔を見にきたのだろうか。
「知り合いでもいた?」
羽琉に尋ねられてハッと我に返る。それから「なんでもないよ」と首を横に振った。