航空自衛官の元カレの偽装婚約者になりました


「あ、そうだ羽琉。私、お手洗いに行ってくるから先にファンサービスに行ってて。悠翔のサイン貰ってきなよ」


そう言って私は急いでこの場を離れた。

向かう先はここから少し離れた場所にいる愛梨さんのところだ。


「すみません」


彼女のうしろから声を掛ける。振り向いた愛梨さんの視線が私を捉え、驚いたように目を丸くした。

私のことを覚えているのだろう。

すぐに元の表情に戻った愛梨さんがゆっくりと口を開く。


「あなた、たしか秋村さんの元カノ。どうしてここにいるの?」

「今日の展示飛行を見に来たからです」


そう答えると、愛梨さんはふんと鼻で笑った。


「別れたのに未練があるのね。かわいそう」


自然と手に力が入り、爪が食い込むほどぎゅっと握りしめた。

前回はなにも言い返せなかったけれど今日は違う。私は彼女に話がある。


「上官の娘というのは嘘だったんですね」


はっきりとそう口にすると愛梨さんの表情が変わる。

目つきが鋭くなり、私の手首をぎゅっと握った。


「その話、ここじゃないところでゆっくりしましょう」


愛梨さんが私の手首を掴んだまま、ずんずんと歩いていく。


「えっ、あ、ちょっと」


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