航空自衛官の元カレの偽装婚約者になりました


引きずられるようにして連れて行かれたのは会場内の人気のない場所。

掴まれていた手首を離されたと同時に私は愛梨さんに再び尋ねる。


「どうして嘘をついたんですか。上官の娘だなんて」

「好きだからよ、秋村さんのことが」


愛梨さんはそう言うと、胸の前で腕を組み私を睨むように見つめてくる。


「あなたがじゃまで追い払いたかったの」

「だからって嘘をつくなんて」

「騙される方が悪いのよ」


悪びれる様子もなく愛梨さんが言葉を続ける。


「それに、秋村さんとは別れたんでしょ。だったらもう秋村さんには近づかないでよ」

「あなたこそ悠翔に近づかないで」


私と悠翔が別れたあとも愛梨さんは悠翔とは想いが通じ合わなかったのだろう。

彼女の姿は悠翔の部隊が展示飛行を披露したこの前のお祭りのときにも見掛けたし、今日の航空祭にも彼女は来ている。

愛梨さんはまだ悠翔が好きで、ストーカー行為を続けているのかもしれない。

そうだとしたらすぐにやめてもらいたい。

今の私は悠翔の彼女ではないけれど、愛梨さんの迷惑行為を見逃すわけにはいかなかった。


< 110 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop