航空自衛官の元カレの偽装婚約者になりました


「お怪我はされてないですか」

「いえ、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」


男性に受け止めてもらったおかげで私は無傷だ。でも……。


「あなたこそ大丈夫ですか?」


むしろ彼の方が心配だ。

たまたま前を歩いていた女が突然足を滑らせて階段から落ちそうになった。とっさに手が出て助けてくれたのだろうけど、私を受け止めたとき体のどこかを痛めたりはしていないだろうか。


「自分も問題ないです」


男性はさらりとそう答えた。

改めて彼をよく見るととても背が高く、服の上からでもわかるほど逞しい体つきをしている。だから私を受け止めることができたのだろう。

がっしりとした体格の彼でなかったらふたりで一緒に階段から落ちていたかもしれない。

そうならなかったのは彼が私を支えたままその場で踏ん張るだけの力があったからだ。


「じゃあ自分はこれで」

「あっ、待ってください」


この場を去ろうとする男性を思わず引き止めていた。


「えっと……お礼を、させてください」


とっさに出た言葉。

もちろん助けてもらったお礼をしたいのは本当だけど、それ以上に彼とまた会える理由を欲しいと思ってしまった。


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