航空自衛官の元カレの偽装婚約者になりました

今でも大切な存在




 *


「ごめん、悠翔とは結婚できない。私たち別れよう」


美羽の返事を聞いてもすぐには納得ができなかった。

でも、彼女がどうしても地元を離れられない〝理由〟を知っているだけにそれでも俺と一緒に来てほしいとは強く言えない。

結婚してからも別々の場所で暮らすことはできる。

だけど、これからも転勤が続く俺と、理由があって地元を離れられない美羽とではもしかすると一生別居婚が続くのかもしれない。

それは美羽にとってよい選択なのだろうか。

彼女は俺ではなくて地元の男と結婚した方が幸せになれるではないか。

美羽と結婚したい。

でも、そんな俺の気持ちは美羽を苦しめる……。


「わかった。別れよう」


苦渋の決断だった。

本当は別れなくない。でも、そうするしかいない。だから……。


「最後にひとつだけお願いがあるんだ」


別れたくないが別れるんだ。これくらいの願いは叶えさせてほしい。


「最後に会う夜に美羽を思いきり抱きたい」


美羽のことをずっと忘れないように俺の心と体に彼女を刻みつけたい。


「……わかった。それで最後にしよう」


美羽は静かにうなずいた。


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