航空自衛官の元カレの偽装婚約者になりました
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「――無職って本当だったんだな」
「わっ! びっくりした」
美羽のうしろからそっと近付いて声をかけた。
彼女の体がビクッと跳ねて、驚いた顔で振り返る。
「ゆ、悠翔⁉」
そんなお化けでも見たような顔で俺を見るなよ。
「どうしてここにいるの?」
「どうしてって、この前も会っただろ。去年からまたこっちの基地で勤務してるんだよ」
「それは知ってる。そうじゃなくて……」
美羽が隣の建物をちらっと見る。
今さっき彼女が出てきたこの建物は職業安定所だ。
先日、同僚の亮二に呼び出されて行ってみると、そこには三年前に別れたはずの美羽がいた。
まったく予想外の再会だった。
彼女もなにも知らなかったのだろう。
つまり、俺たちは亮二と、その彼女の明日香さんに騙されたというわけだ。
去年から再びこの地で勤務を始めてから美羽のことが頭になかったわけじゃない。むしろ会いたくてたまらなかった。
でも、未練があるのは俺だけで、彼女はもう俺のことなんて忘れているだろうと思うと連絡を取ることも、会いに行くこともできなかった。
亮二はそんな俺の気持ちに気付いていたのだろう。
だから俺を騙して、無理やり美羽に会わせた。