航空自衛官の元カレの偽装婚約者になりました
そのとき、美羽が無職であることを知った。
付き合っていた当時から会社がブラック企業だと漏らしていたが、どうやらその会社が倒産したらしい。
それで新しい職を捜しているがなかなか見つからないのだと話していた。
「たまたまこのあたりに用事があって歩いていたら、美羽が職業安定所から出てくるのが見えたんだ」
嘘は言っていない。本当に偶然だ。
平日の代休を利用して、この近くでの用事を済ませたところで美羽の姿を見掛けた。それで声を掛けただけのことだ。
「そっか」
美羽がぷいっと俺から視線を逸らす。
やはり俺と顔を合わせるのは気まずいのだろうか。
「……言っておくけど、無職ではないから。飲食店でパートしてるし」
ぼそっと呟く彼女を見て理解する。
もしかすると気まずいのは俺と顔を合わせることではなく、無職だと思われたことなのかもしれない。
俺を置いてすたすたと歩き出した美羽のあとを追いかける。
それから俺たちは一定の距離を保ちながら駅へと向かい、同じ電車に乗り、同じ駅で降りた。
その間、会話はない。
でも、お互いに意識をしているのは伝わってくる。