航空自衛官の元カレの偽装婚約者になりました
美羽が五歳のときに建てられたらしい二階建ての一軒家。
到着早々、リビングのソファに腰を下ろし、俺と羽琉はコントローラーを握りゲームに夢中になる。
それを美羽がキッチンから呆れた様子で見ているのもあの頃と同じだ。
その夜、俺は笹倉家で早めの夕食をご馳走になった。
三年振りに食べる美羽の手料理は相変わらず美味しくて、どんな高級レストランで食べるよりも俺にとっては価値のあるものだ。
午後七時。
羽琉が塾へと行き、リビングには俺と美羽だけが残される。
「はい、コーヒー」
「ありがと」
彼女の淹れてくれたコーヒーをソファに座りながら飲む。
隣に美羽も腰を下ろし、しばらくは沈黙が続いた。
羽琉がいなくなった途端、気まずい空気が流れ始める。
「お父さんはまだ海外赴任が続いているのか?」
テレビ台の横に置かれた収納棚の上に飾られた家族写真がふと目に入って尋ねた。
美羽と付き合っていた頃から、彼女と羽琉の父親は仕事で海外に暮らしていた。
三年振りに訪れたこの家に父親の私物らしきものが見当たらないところを見ると、海外赴任は現在も続いているのかもしれない。