航空自衛官の元カレの偽装婚約者になりました


「うん。まだアメリカにいる。五年のはずだったんだけど、現地で受け持っている仕事が長引いているみたいでなかなか本帰国できないみたい」

「そうか」


ということは、この家には今も美羽と羽琉がふたりで暮らしているのだろう。

母親は美羽が十八歳の頃に病気で亡くなったそうだ。

そのとき羽琉はまだ六歳。

それ以来、仕事が忙しい父親の代わりに美羽が歳の離れた弟の羽琉の親代わりをしている。


「悠翔は憧れの部隊に配属されたんだね」


コーヒーの入ったカップをテーブルに置いた美羽の視線が俺を見つめる。


「おめでとう。この前会ったとき言えなかったから」

「ああ、ありがとう」


俺も手に持っているカップをテーブルにそっと置いた。

去年からこちらの基地に戻ってきたのは念願叶って憧れの部隊への配属が決まったからだ。

任期は三年。

一年目の去年は育成パイロットとして飛行技術を習得する年だったが、二年目の今年からはいよいよ自分で操縦してアクロバット飛行を披露する。

その話を前回思いがけず再会した席で亮二が話題に出したことで美羽にも伝わった。


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