航空自衛官の元カレの偽装婚約者になりました

偽装婚約



 *


かかってきた電話に出るため悠翔がリビングを出ていった。

誰からだろう……。

扉一枚隔てた廊下から聞こえる悠翔の微かな声に耳を傾ける。でも、話している内容まではわからない。

もしかして彼女だろうか。それか、奥さんとか。

別れてから三年が経っているのだから悠翔にそういう相手がいてもおかしくはない。

再会したときにちらっと見た薬指には指輪をしていなかったから結婚はしていないのだろう。でも、普段からつけていない場合もある。

彼本人に直接確かめるのがこわくて聞けないでいたけれど、彼女か奥さんがいた場合、元カノの家に来てもよかったのだろうか。

相手は、どんな人なんだろう……。

ふと脳裏に過ったのは悠翔の上官の娘の愛梨さん。

結婚を勧められたときに彼は一度は断ったらしいが、私と別れたことでふたりの関係が進展した可能性もある。

悠翔が幸せならそれでいい。

そう思おうとしたけれど胸が苦しい。


『ごめん、悠翔とは結婚できない』


彼からのプロポーズを断った日を思い出す。

嫌いだったわけじゃない。むしろ一生を共にしたいほど大好きだった。

だけど、私では彼の妻に相応しくないと思い身を引いた。


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