航空自衛官の元カレの偽装婚約者になりました


このあとの展示飛行には悠翔のお母さんも東京から見に来る。会場内のどこかにいると思うが、顔を知らないのですれ違ったとしてもわからない。

でも、明日の食事会では会うことになっている。

悠翔のために婚約者役を演じなければならないから。

不安はあるけれどいったん忘れて、今日は悠翔の操縦する機体が飛ぶ姿をこの目にしっかりと焼き付けたい。

会場内では他のイベントも開かれていて、昨夜遅くまでゲームをしていて寝不足だという羽琉と共に見て回る。

ふわぁと大きなあくびをする羽琉を見て、思わずため息がこぼれた。


「いい加減ゲームばかりするのはやめなよ」


ついつい小言が漏れてしまう。

だいぶ大目に見てきたけど、そろそろこのあたりで一度ぴしっと注意をした方がいいのかもしれない。

平日は学校から帰るとずっとゲーム。休日も友達と出掛けたりせず、家にこもってゲーム三昧。羽琉はそれで本当にいいのだろうか。


「だってゲームしか楽しいことねぇもん。それに、ゲームしてるときだけ現実のつらいこととかいろいろ忘れられるし」


ぼそっと呟いた羽琉の言葉に胸がツキンと痛んだ。

現実のつらいこととは、母親がいないことを言っているのだろうか。


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