航空自衛官の元カレの偽装婚約者になりました


「悠翔さんも来るかもしれないよ。行ってみようよ」


私が見たかったのは展示飛行だけど、もしかしたら制服姿の悠翔が見られるかもしれない。

少しだけ気持ちがぐんと上を向いた。


「うん。行ってみよう」


羽琉の手を取って歩き出す。

けれど、どこでファンサービスをしているのかわからず歩き回り、ようやく見つけたときにはたくさんの人で溢れていた。

青色の制服を着た隊員たちが写真撮影などに応じている。

悠翔の姿を探すけれど見つからない。

でも、さっきまで上空で演技をしていたのだから、この場に来るのは難しいのではないだろうか。ここにいる隊員たちはもともとこの会場にいた方たちなのかもしれない。

そのときふとファンサービスの列のあたりにいるひとりの女性の姿が目にとまった。

たしか彼女は……。

記憶を手繰り寄せて思い出したのは悠翔の上官の娘の愛梨さん。

その瞬間、数年前の航空祭での出来事が鮮明に思い出された。


『あなたでは秋村さんとは不釣り合いです。私の方が彼を支えるのに相応しいと思うんです』


愛梨さんの言葉が私と悠翔の別れの直接的原因だったわけじゃないけれど、きっかけのひとつになったのはたしかだ。


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