航空自衛官の元カレの偽装婚約者になりました


緊張している場合ではない。

今日のために婚約指輪まで用意するほど気合を入れている悠翔のためにもしっかりと婚約者を演じて、しつこい見合い話をやめてもらわないといけないのだから。

エントランスをくぐった私たちはホテルの一階にある和食料理屋へと向かう。

スタッフに案内されて個室に入った。

悠翔のお母さんはまだ来ていないようだ。


「素敵なところだね」


窓からはきれいに手入れされたホテルの中庭が見える。

今日はあいにくの曇り空だが、色とりどりに咲く花は華やかで美しい。

ぼんやりと中庭を見つめていると、トントンと襖が軽くノックされる。スタッフの案内でやって来たのはすらりと背の高い女性だ。


「あら、早かったのね」


この女性が悠翔のお母さん。目元がそっくりだ。

彼女の登場にピリッと空気が引き締まるのを感じた。

それくらいの強いオーラを放つのは、彼女には大きな会社をまとめる社長という立派な肩書きがあるからかもしれない。

悠翔のお母さんが私たちの対面の席に腰を下ろした。


「久しぶりね、悠翔。元気にしてた?」

「まぁな。母さんも元気そうでよかった」


悠翔がお母さんに会うのは一年振りだと聞いている。しつこい見合い話をかわすためにわざと避けていたそうだ。


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