航空自衛官の元カレの偽装婚約者になりました


すると、和やかだったお母さんの雰囲気が突然がらりと変わり、再びこの場の空気がぴしっと引き締まるような感覚がした。


「涙が出そうになるくらい、見ていて心配で不安でこわくもなったわ」


……え。

思っていたのと違うお母さんの感想に私も食べる手を止めて箸を置く。


「だからやっぱり今の仕事は辞めなさい」


お母さんは悠翔に向かってきっぱりと告げた。


「結婚するということは家族ができるのよ。それなのに今の仕事を続けるの? 立派な仕事だとは思うけど、常に危険と隣り合わせにあるような仕事なのよ。悠翔にはお父さんみたいになってほしくないの」


真剣な眼差しでお母さんは悠翔に訴える。

彼女の言葉を聞いてふと思い出した。

付き合っていた頃に悠翔から聞いたことがある。悠翔のお父さんは航空機事故で亡くなったのだ。

今はお母さんが社長を勤めている航空運送事業の会社は、以前はお父さんが社長を務めていた。

けれどある日、人員不足のため社長であるお父さんが急きょ操縦して飛ぶことになり、建設資材の運送中に機体トラブルで山中に墜落してしまったそうだ。

お父さんはそのまま還らぬ人になったのだと聞いている。

だからお母さんは息子である悠翔も航空機事故で亡くすのを恐れているのかもしれない。


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