航空自衛官の元カレの偽装婚約者になりました


「一度だけ悠翔さんに、こわくないの?と聞いてみたことがあるんです。でも、悠翔さんはこわくないとすぐに答えました」


当時の会話を思い出しながら私は言葉を続ける。


「ここで自分が領空侵犯をしてきた航空機を見逃したらたくさんの人たちが危険にさらされるかもしれない。自分がどうなるかよりも、追跡している航空機を見逃さないことだけしか考えていないと、悠翔さんは話していました」


悠翔には恐怖心なんて一ミリもなかったのだ。


「私はそれを聞いて、すごいなって思って。悠翔さんがそんなに強い思いを背負って飛んでいるんだから、私はたくさんの人たちのために命をかけている彼を支えたいと思いました。だから今はこわくありません」


こわがるのではなくて、悠翔を信じようと思ったのだ。


「美羽……」


私の名前を呼ぶ悠翔の小さな声が聞こえた。

お母さんに伝えた気持ちは付き合っていた頃に実際に思っていたことだが、悠翔には一度も伝えたことがなかった。

まさかこんな形で打ち明けることになるなんて。

しかも今の私は悠翔の彼女でも婚約者でもない。それでも当時の想いが溢れてきて言葉が止まらない。


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