悪女の涙は透明らしい
虐げられる者
地元民はほとんど来ない寂れた小さな古本屋の一角。
年期の入った木製のデスクと、聞き馴染んだ店内ラジオの雑音が耳に心地よい。
〜♪ 〜♪ 〜♪♪。
懐かしい。昔母がよく歌ってくれた、大好きな子守唄だった。
「…これが最後か」
「なんで最後なんだ?」
求めていない返答の声に驚いて視線を横にスライドさせると、一人の男が立っていた。
手に古本屋の【気侭】のロゴがプリントされた袋を持った男は黒いパーカー姿にラフなサンダル。
日の沈みかけた店内で見えずらくないのかと思う、目元を隠すフレームの分厚い眼鏡が印象的だ。