悪女の涙は透明らしい

「な、なんだお前っ!!」

「こいつ増田さんを吹っ飛ばしやがったぞ!?」


足の力が抜けてズルズルと壁伝いに地面に膝をついた私の目の前に、誰かがしゃがみこむ。


「大丈夫か?」

「どうして…」


自分の顔を覗き込む眼鏡の奥で、冷静な切れ長の瞳が私を見つめる。


薄明かりの中、それは妙な感覚だった。

その場にいた全ての人間の視線を集めつつ、しばしその異様な雰囲気に地面に縫い付けられたかのように動けない。

まるで獰猛な獣と鉢合わせた時の人間の防衛本能のような、本能的な直感。


「お前【気侭】に学生証忘れてっただろ。届けてくれって康兄から預かってきた。ほら」

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