悪女の涙は透明らしい
「あんた、よくここに座ってるよな。」
「…そういうあなたは?」
ズカズカと空いていた席に座った男は興味深げに私を見ている…と、思う。
私はその視線に眉を寄せつつ窓辺から見える夕陽に視線を逸らす。
「俺はチカ。ここ俺の友達の兄貴が経営してる店で昔からよくここに来てんだ。あんたもよく来るよな」
「……ここからの景色が1番好きなの。でも、...もう終わりにする」
「なんで?」
「あんたに言う必要ある?」
「ないな」
「なら私の事は放っておいて」
「高橋 奈緒。」咄嗟の自分の名前に驚いて振り返ると、男──チカがニコッと笑みを浮かべる。
「お前が好きだ。奈緒」
「…………はあ?」
聞き間違いだろうか。
今、初対面の、しかも正体もよく分からない男に告白されたような……
「なんの冗談「俺は」」
やばい人間に話しかけられたのではなかろうかと無視しかけた時、男が声を被せる。
「俺はお前の味方だ」
「………私には必要ない」
自分でも驚くほど低い声で、拒絶と断絶を込めた一言をぶつけた。
もう私に味方なんて必要ない