悪女の涙は透明らしい

女が言った


「あんたなんて早くいなくなっちゃえばいいのに」って


私もそう思う


早く消えたい


静かに息が吸える場所に


毛色の違う柵の中の獣を珍しがらない場所に



ガチャっ…カランコロンッ


喫茶店のような小洒落た鈴の音が鳴る扉を開けると、いつもの古本と珈琲のほのかな香りがする。

気づくといつも、【気侭】の看板の扉をくぐっている。


「あ、奈緒ちゃんおかえり」


「ただいま、康二さん」


古本屋&カフェである気侭のオーナーの瀬名康二さんが、私を見つけてふわりと笑いかける。

赤いトレードマークのエプロン姿の康二さんは、そこらにいる俳優なんかよりずっとイケてるお兄さんだ。
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