とばりと薔薇
とばりと薔薇


1.
可愛い人間がいました

つつかれると
尺取り虫のように縮こまります

ときどき、私の葉っぱの「みの」で
身を隠して目をくらませます。

夜にはあーだよ、こーだよと
お星のお姉様方が言うと
人間はきゅうっと
縮こまって

だってだってだって…と
言「葉」をいっぱい集めて
お布団みたいに隠れて
複雑な模様の言の葉の布団の
中に隠れるのです。

そうすれば皆が
彼のことがわかりません
ときどき不満に聞こえる
こともありますが
彼の心に吸い殻が
投げ捨てられて
いっぱいになっているからです

すねたり
言い返したり
女主人の白い指を
ちくっと刺すとき
手のひらで
うんうん、大丈夫よと
女主人が温めると
姿を現して
笑顔でこっちを見る
かわいい人間でした。

おやすみなさい。



2.

王子様はほんとうにお優しい方です。

産声をあげたそのときから、祝福を受けています。

それなのにどうでしょう。
王子様が一緒にアイスクリームを食べたいお隣の人は、つまづいて転んで、アイスクリームを落としてしまいます。

王子様が一緒にゴーカートに
乗れば、お隣の車はガス欠になります

それなのに、王子様は
自分のアイスクリームを
大事な、可哀想な
人たちにあげようとしても
あげることができないのです。
王子様のゴーカートに
乗せてあげることもできないのです

たといわたしの胸に
大きい虫食いがあろうと
わたしの背骨に棘が
あったとしても
王子様はお優しいでしょう

後悔に、祈りに、
王子様は私めに
優しくあらせられます

少し月が落ちまた昇るのを
早めてもよろしいでしょうか?


3.

「あなたさまは」
月は言いました

あなたさまはあの方を
どう思いますか?

わたくしは答えました
あの方は…です。あの方は…です。
あの方はまた……です。また……

月と話したあの晩のことを
想い出しながら書こうと思います

あなたさまは
お優しい人です

力でもってわたくしを
守るわけではなく

知性によって
そして愛によって

守ってくださっています

わたくしは咲くのに
笑顔が眩しいとお褒めをいただいて
おきながら

わたし自身は
視線を浴びると
そこから黴びてしまうのです

わたくしは
あなたさまの黒い僧衣のなかに
隠れて 咲くなら
その光を漏らさぬように
守られます

その黒いマントのなかで
どれだけ救われたかわかりません


さて、今日は3度も
月が落ち月が昇りました


おやすみなさい
良い夜を。


4.

わたしには、あなたさまが
とても大きく見えます

大きくてあったかく
感じます

あなたさまの腕に
いだかれたことが
なくとも

あなたさまを感じています

あなたさまは背の高い
柳の樹のようで

考える人のよう

動物たちが木陰で
休んでいるようです

わたしはついもたれかかりますが
あなたさまは樹なので
少しなら大丈夫なのでしょう

ですが私も薔薇の木ですから
あなた様のように
人はもたれるでしょう

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