神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
狭い板敷きの間で緋の衣にそでを通したのち、美穂は男に手を引かれ、神殿と呼ばれる場所へ『瞬間移動』したのだ。

訳が分からない美穂の前で、男は赤褐色の体毛をもつ大きな虎に変わった。

動物園の檻のなかやテレビ画面でしか見たことのない猛獣の出現に、美穂は腰を抜かしたのだった。

(“(あかし)”がどうとか言って、人の足、引っ掻きやがって)

昨夜の出来事を思いだし、恐ろしさとわずかな痛みもよみがえる。

「じゃあ、アンタだけが知るアタシの真名(なまえ)も、ちゃんと覚えているわよね?」

微笑みかけてくるセキコを、美穂は思いきり鋭く見返してやる。

「さあ? セキコじゃないの?」

この呼び方は通称らしく、男が指摘したように、美穂は彼の真名を知っていた。

「それは通り名。
まぁ、アンタもアタシを呼ぶのに不便だろうから、当分はソレでいいわよ」

わざとはぐらかした美穂に気分を害したふうでもなく、広げた和紙に持っていた筆をまた(・・)すべらせるセキコ。

『真名』と書かれた横に『禁忌』と記される。
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