神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
「め、滅相もございやせん!
あっしはただ、セキ様に申しつかって、美穂様のご様子を───」

美穂の剣呑な目つきに気づいたのか、猿助はそこであわてたように口をつぐむ。

しばしの沈黙ののち、カリカリと後頭部をかきながら、おしゃべりなサルはふたたび話しだす。

「その……お帰りになりたいのですかい? 美穂様が、居られた世界に」

……独りごとを聞かれていたのだ。
気まずさから、美穂は口をとがらせる。

「さあ? あたしにとっては、どっちも一緒だよ。
……どこにも居場所なんてないんだから」

投げやりな言い方に、対応に困ったように猿助は押し黙ってしまった。
何を言っても美穂の機嫌を損ねると察したのだろう。

(人間より動物のほうが、そういうトコ敏感だよね)

ふと、学校のなかで浮いた存在だった自身が、思いだされた。


       *


「ねぇ、豊田(とよた)さん」

机に突っ伏して寝ていた美穂は、何度目かの呼びかけに顔を上げた。

休み時間。
偏差値と通うのに便利という理由で選んだ女子高は、家庭が比較的裕福で、大人しい子たちが多かった。
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