神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
弐 ケガレある乙女

《一》短い縁だったわね。




「あれ? 美穂ちゃんだけ?」
「……あ、はい。叔母さんは友達と食事に行くって書き置きが、テーブルの上に。大樹(だいき)くんは、まだ帰ってなくて」

誰もいないのをいいことにリビングのソファーで寝そべり、少年漫画雑誌を読んでいた美穂は、あわてて起き上がった。

「そっか。夕飯は……用意されてるね。美穂ちゃんも、たまには一緒にどう?」

家主である中年のこの男も、帰りが遅いことが多く、今日もそうだろうと思っていたのだが。

「や……あたしは、いいです」

叔母の旦那が、美穂は苦手だった。
風呂をのぞかれたり、いやらしいことを言われたわけではない。
ただ、一度だけ───他の者の目を盗むように、手を握られたことがあった。

「いつもインスタントラーメンとかパンだけでしょ。若いのに、栄養足りないんじゃないかな」
「平気です。あたしの分は、ないし」

実際、美穂の食事が用意されていることは(まれ)だった。
美穂としても、他人の家族団らんに混じる気はなかったので、都合が良かった。

「なんだか悪いね。美穂ちゃんに充分なことができなくて」
「いえ、本当に───」
< 22 / 66 >

この作品をシェア

pagetop