神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
《二》悲しいのは、なぜ?
黒虎・闘十郎。
セキコ同様、この“下総ノ国”の“神獣”であり、『破壊と死』を司どる存在───であると、当人が来る前に説明を受けたのだが。
「ふむ。おぬしが美穂か。男の子……ではないのか、そうか。これは失礼した。
わしは、闘十郎と申す。良しなにな」
翌日。朝食後に菊から客間で待つように言われ、美穂の前に現れたのは十五六の少年だった。
(自然に失礼なこと言われると、何も言えなくなるもんだな……)
ボサボサの黒髪と人懐っこい瞳、快活な口調からは想像もできないが、彼が“神獣”・黒虎らしい。
(あいつ『じい様』って言わなかったっけ?)
なんだか腑に落ちないが、とにかく美穂は、自分の疑問を率直に訊いてみた。
「で? あたし、本当にすぐに、元の世界に戻れるの?」
昨日の会話以降、あの『男オンナ』とはまともに話をしていない。
闘十郎が来ることも彼についても、美穂の世話をやく菊に問いただして知ったくらいだ。
(しかもあの菊って人、必要以上のこと話さないしさ)