神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
「ま、それはおいといて」

咳払いをひとつ、する。
次いで、あでやかな容姿の男は、その声域にふさわしい堅い口調で言をつむいだ。

「よびてきたりしセキコのついなるは、これここにあらんとす。
ちぎりしものをほっするわがみにおりてたまわらんことを。
カイジョウ」

戸を開けて、男が美穂に近寄ってくる。
わずかに震えが走った身体に、美穂自身よりも先に男のほうが気づいた。
小さく、笑ってみせる。

「これに着替えて。外で待っているわ」

布の載った盆が、美穂の前に置かれる。
緋色の生地に、銀の刺しゅうがほどこされた着物のようだった。

美穂の手は、自然と緋の衣に伸びていた───。




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