神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
“神籍”に入ると外見は変わらず、また、病気になりにくく怪我をしても治りが早い。

つまり、不死身の肉体になる訳ではなく、条件がそろえば病気にもなるし、大怪我もするということだ。

だからセキコは彼の『力』で美穂の濡れた髪を乾かし、風邪などひかぬようにしてくれたらしい。

(あ、そういえば)

裸足で屋敷を飛び出した際に負ったすり傷も、当日の入浴時には痛みをまったく感じなかった。

傷自体は深くなかったとはいえ、まるで何もなかったような状態に戻っていたのは、いくらなんでも治りが早すぎる。
それもこれも───美穂が“神籍”に入ったから、なのだろう。

(それは……分かったけど……!)

美穂の身のうちに、理由の解らない怒りがわき上がる。

「まぎらわしい真似すんな、馬鹿オカマっ!」

怒鳴りつけ、美穂は憤然と寝床に戻り、布団を被った。

「───お休み、美穂」

ややしばらくその場にいたらしいセキコから、障子ごしにかけられた、つややかな声。
優しい響きで発せられた、自分の名前。

(……っ、馬鹿みたい……!)

セキコが自分に情欲を抱くはずなどない。
彼は、あの口調と装いが示す通り、男色家なのだ。
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