神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
昨日の市内見物───美穂が勝手に名付けた───は、軒先に棚を出した露店めぐりのようなものだったのだが。

セキコの装いはいつもとは違い、質素で簡略なひとめで『男』と判る着物姿だった。

目を惹く容貌からか、若い女性客から中年の女店主に至るまで頻繁(ひんぱん)に声をかけられ、一緒にいる美穂が居心地が悪くなるほどだった。

「連れがいるの。またにして」
と、やんわり断る口調は彼独特のものだが、応じる者たちは一様に、彼の「また」という言葉を額面通りに受け取っていた。

「どうかした?」
「……別に」

美穂の視線に気づいたらしいセキコに不思議そうに見返され、つんと横を向く。

家のなかでは女の格好をして、外では男の格好をする。体裁を気にかけているのだろうか?

「……なんで昨日は、あんな格好してたのかと思ったから」

ひと呼吸置いて答えれば、ああ、と、事もなげに応じられた。

「派手な衣だと破落戸(ごろつき)が寄って来やすいし、この格好だとアンタを護るにも動きにくいのよ」
「あたしを護る……?」

考えていたこととまるで方向違いの返答に、美穂は思わずセキコを見た。
軽くうなずいて、微笑み返される。
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