神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
「アンタに、この世界で嫌な思いをして、帰って欲しくなかったから。
できれば、良い想い出だけを残して、帰って欲しいからよ」
やわらかく、つつみこむような眼差し。
自分に向けられた善意の言葉に、美穂はいたたまれなくなった。
「美穂?」
息が苦しい。胸が痛い。
泣きたくもないのに、泣きそうな気分になる。
(なんだコレ……!)
自分が抱える正体不明の感情に、美穂はまた、いら立ちを覚えた。
「気分でも悪いの?」
セキコの心配そうな呼びかけも問いかけも、いまはただ、わずらわしい。
様子を窺う鳶色の瞳から顔をそむけ、美穂は立ち上がった。
「……外の空気吸ってくる」
「そう? じゃあ猿助に───」
「いらない。このあいだ行った沢の所までだから。あんたの領域内なんでしょ?」
「……分かったわ」
美穂の頑なな態度に、何かを言いかけたセキコは、それを了承に変えたようだった。
言い争いになると踏んで、やめたのだろう。……美穂に、嫌な思いをさせないために。
遠慮を感じさせる態度が、セキコが美穂との間にとった距離であることに気づく。
美穂は、望んだはずのその『距離』に傷ついている自分を振り切るように、屋敷の外へと出た。
できれば、良い想い出だけを残して、帰って欲しいからよ」
やわらかく、つつみこむような眼差し。
自分に向けられた善意の言葉に、美穂はいたたまれなくなった。
「美穂?」
息が苦しい。胸が痛い。
泣きたくもないのに、泣きそうな気分になる。
(なんだコレ……!)
自分が抱える正体不明の感情に、美穂はまた、いら立ちを覚えた。
「気分でも悪いの?」
セキコの心配そうな呼びかけも問いかけも、いまはただ、わずらわしい。
様子を窺う鳶色の瞳から顔をそむけ、美穂は立ち上がった。
「……外の空気吸ってくる」
「そう? じゃあ猿助に───」
「いらない。このあいだ行った沢の所までだから。あんたの領域内なんでしょ?」
「……分かったわ」
美穂の頑なな態度に、何かを言いかけたセキコは、それを了承に変えたようだった。
言い争いになると踏んで、やめたのだろう。……美穂に、嫌な思いをさせないために。
遠慮を感じさせる態度が、セキコが美穂との間にとった距離であることに気づく。
美穂は、望んだはずのその『距離』に傷ついている自分を振り切るように、屋敷の外へと出た。