神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
壱 オトコの正体

《一》黙っていれば、文句なしの美青年




目覚めても、夕べのままの見知らぬ土地の見知らぬ屋敷に美穂はいた。

(夢、じゃなかったんだ……)

上半身だけ起こして、美穂はぼんやりと考える。
家が恋しい。元の世界に戻りたい。
……そんな想いは、一向にわいてこなかった。

「失礼いたします」

品の良い若い女の声。
わずかな間ののち、障子がつ、つっ…と開かれる。

「おはようございます、姫様。
朝餉(あさげ)の準備ができております」
「……………………それ、あたしに言ってんの?」
「左様にございます。
陽もじきに高く昇ります。いつまでも寝所に居られるのは、いかがなものかと」

よどみなく流れる言葉は機械人形のように素っ気ない。
美穂と同年代くらいに見えるが、落ち着きはらった態度と無表情が、彼女をずっと年長に思わせた。

だが、いまの美穂にとっては、この女───確か、(きく)と名乗っていた───の抑揚のない口調は、不快ではなかった。

誰かと深く関わることは、わずらわしさしか覚えないからだ。
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