神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
「犬……?」

草をかき分けて見れば、金茶色の毛をした獣がいた。

犬に似てはいるが、尾は太くふさふさしていて、足先は細く黒い。
同様に、ピンと立った大きめの耳の毛先も黒かった。

「ひょっとして、キツネ?」

美穂にとって身近な動物ではないため解らないが、犬と言いきるには特徴が違う気がした。

しかし猿助とは違い、話しかけても応答がない。これは、話せない類いの動物なのだろう。
そう納得した美穂の目に、草と薄暗さから見えなかったものが、映った。

仕掛け罠だ。後ろ足が挟まれている。
もがくように足先を動かしてはいるが、抜けそうにない。

「待ってて、いま外してあげるから……」

何か代わりに挟み込めるものをと思い、美穂は自らの木沓を脱ぐ。
バネ式のそこに、ねじ込ませる狙いだ。

「……だめか」

美穂の力では多少開きはしても、獣の足を出すことも木沓を噛ませることもできない。
その間も、金茶色の獣は鼻を鳴らし苦しそうに息を吐いている。

ふいに開いた金茶の細い眼が、美穂を捕らえた。

「もう一回、やってみるから」

安心させるように笑ってみせ、美穂はふたたび罠に手をかけようとした。

瞬間、獣が身をよじり、細長い鼻先を地面にこすりつけた。美穂に何かを伝えるように。
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