神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜

《二》この魂を支配する、ただひとつの存在




薄暗い森のなか、そこだけ火が灯ったように存在を誇示する、赤き“神獣”の“化身”。

人の身となり現世(うつしよ)に顕れたるは、己が“花嫁”を得るため。
言語を操り、人心を推し量れるのも、すべてそのためなのだ。

「……お前のモノだと?」

(あやかし)が、面白そうに笑った。
『小さな花』を見下ろし、ゆったりとした動作で腕を組む。

「見たところ生娘のようだが。
おおかた、お前のモノとなるのが嫌で、逃げ出してきたのではないのか?
ならば、我のモノとしても問題あるまい?」

野花を手折(たお)るように、感慨もなく。
()いたら打ち棄てるだろうことも、容易に想像がつくほどの、いっときだけの執着───我慢が、ならなかった。

「……っ、は……!」
「簡単に扱っていいものかどうかの区別もつかない、阿呆が!
妖狐の分際で“神獣(かみ)”の女に手を出すとはな!」

一撃で仕留めなかったのは、罪深さを魂に刻むため。
ぎりり、と、手中に収めた命を締め付ける。

「死をもって償え!」

もがき、あらがう妖の姿には、自らを止める力などない。
ましてや、同情を誘う要素など皆無だ。
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