神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
《三》桃の香りのくちづけ
美穂がこの世界に居たいという意思を示してから、セキコは毎日、美穂に『授業』を行った。
“陽ノ元”にある国々の話。
“神獣の里”という、たくさんの“神獣”が住む異界の話。
さらに、人と“神獣”の古くからの関わり方、などなど。
(ソレなんかの役に立つの? ってな感じの、くっそツマンナイ内容だけど)
美穂は逆らわずに、大人しく聞いている。
……時々、茶化すくらいはするが。
(でも、なんか……)
悪くない。
セキコとそうして過ごす時間は。
筆を持つ、長く綺麗な指と。
胸に響く、つややかな声音。
時折、美穂を見つめて甘やかさを含む、鳶色の瞳。
(……何コレ。なんか、そわそわする)
落ち着かない気分になることがある。
セキコには美穂が『違うモノ』に見えているのではないだろうか?
(っていうか、あたしにもこいつが、時々『違うモノ』に見えてる……ような気もする)
相変わらずの女装いと女の口調。
美穂の身なりや食生活に口を出し、礼儀作法についても指摘されるので、
(お前はあたしのオカンか!)
と、美穂が内心で突っ込むことも多々ある。
しかし、それら全部をひっくるめて、美穂にとってセキコは『悪くない』のだ。