神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
ちょっと笑うと、セキコは桃を取り上げ手にした小刀で器用に皮をむき始める。

「この桃はね、アタシがじい様に頼まれて『力』を与えて獲れた桃なのよ」

口開けて、と、桃をひときれ鼻先に差し出される。
いっそう濃い香りが美穂の鼻腔(びくう)を刺激した。

(……あーんしろってか!)

「早く。せっかく冷やしておいたのに、アタシの熱が移っちゃうでしょ」

ここで引いたら負けのような気がして、美穂はセキコをにらみながら口を開けた。

冷たい果肉と果汁、わずかに、セキコの指先が唇に触れる。
そのことに一瞬、びくっとしながらも、モグモグと口を動かすことに美穂は集中した。

「……いい子ね」

口のなかに広がる芳香とセキコの微笑みが、味覚と視覚に甘さをもたらす。

(なんだ、このこっ恥ずかしい状況!)

美穂の体温は一気に上昇したが、元凶であるセキコは涼しい顔で桃を切り分け、皮をむいていく。

「それじゃ、問題。
アタシという赤い“神獣”が司る力はなんでしょう?」
「……生とカイタイ?」
「正解。はい、ご褒美よ」

セキコとのうろ覚えな『授業内容』を思いだし、美穂が答えると、ふたたび桃が口の前に運ばれた。

美穂は熱くなった頬のまま、エサに食らい付く魚のように、ぱくんと桃を捕らえる。
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