神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
「まぁ、人間(ひと)側から見た“役割”だから、懐胎なんて言い方をするんだけどね。
実際は、生きとし生けるすべての動植物に、生きる力と新しい生命を授けるというのが、大正解なのよ」

はい、と、セキコから食べさせられることにもやや抵抗がなくなってきた美穂は、口のなかの桃を味わったあと、先程のセキコの話を継いだ。

「コクのじいさんに頼まれたって言ってたけど、こっちの世界に桃ってなかったの?」
「……あら、めずらしくいい質問ね。いまのアタシの話を、ちゃんと聞いてた証拠だわ。
はい、ご褒美」

めずらしくは余計だと思いながらも、美穂はセキコに褒められたことにこそばゆさを感じつつ、桃を咀嚼(そしゃく)する。

「『桃』自体はあったの。
だけど、甘味はそんなに無くて、香りもこれほど豊かではなかったわ」
「……へぇ。あの人、見かけによらずグルメ?」
「まさか! 量を食べられれば満足な、味音痴なジジイよ。
じゃなくて、じい様が百合(ゆり)さんのご要望を叶えるために、アタシに相談してきたってワケ」

百合さんというのは、じい様ことコクコ・闘十郎の“花嫁”の名だ。
美穂はまだ会ったことはないが、セキコいわく「すっごい美人だけど無愛想なヒト」らしい。
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