神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
❖そして、現在(いま)

月の下をふたりで歩く




実に、二十二年ぶりに、山道を歩いていた。
前を行く緋色を基調とした狩衣(かりぎぬ)姿の男が、ちらりちらりと美穂を窺うように見てくるのが地味に鬱陶(うっとう)しい。

「……知ってる?
お前みたいなヤツ、あたしのいた世界では『うざい』っていうらしいよ。
この前、咲耶(さくや)に聞いたんだ」
「……あら。褒めても何も出ないわよ」

にっこりと笑ってみせる様は、それが『悪口』であることに気づいた上での返しだと、美穂に知らしめる。

(褒めてないっつーの!)

口では敵わないことは、この二十三年間で嫌というほど身に染みている。
……他にも色々と、敵わないことは多いが。

「咲耶……よくコッチに戻る気になったよね」

自分と同じく“陽ノ元”に召喚された白い“神獣”の“花嫁”。
だが彼女は美穂とは違い、召喚条件を偽られた、いわば喚ばれるはずのない(・・・・・・・・・)存在だった。
そのことにより元の世界に帰されたが、咲耶は彼女の意志でこの“下総ノ国”に戻り、“花嫁”としての一生を過ごすことを選んだのだ。

「そう? 咲耶はアンタよりこの世界になじむ努力をしていたし……自分の“役割”を果たしたいって考えたんでしょ」
「……咲耶はあたしと違って『良いコちゃん』だもんね」
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