神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
ぼそっとこぼし、美穂はあらぬ方向を見やる。すると前方で、含み笑いが聞こえた。

「あら、()いてるの? 単純に、召喚された年齢の違いよ?
アンタと違って咲耶は、分別がつかなきゃおかしい歳だった、ダ・ケ」

鼻先をつつかれて、美穂は脱線した自分に気づかされる。

この男の前では、すぐに()ねてヘソを曲げてしまう。……悪癖だ。

早く歩けよ、と、その背中を押しやり、美穂は話を軌道修正する。

「じゃなくて。
咲耶は親や兄弟がアッチにいてさ……愛されて、大事にされて育ったっぽいじゃん?」

また、自分とは違って、と付け加えそうになったが、今度は拗ねた言葉はのみこんだ。

「それなのに……戻って来たんだなあって、思って」

美穂は『あの世界』に居場所がなかった。だから、迷いは一切なかった。
むしろ───。

「そうね。その辺りはアタシたちには想像し難いけど」

そう言って足を止め、美穂を振り返る青年がいたからこそ。
美穂は『この世界』にいる自分が、まんざらでもないと思えるようになった。

「……アンタも、ちゃんと愛されて育った子でしょ? だから、大切な『賜り物』として、アタシは扱ってきたつもりだけど?」
< 59 / 66 >

この作品をシェア

pagetop