神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
ご不満? と、首を傾け美穂を見つめる鳶色の瞳は、自信に満ちあふれている。
その言葉通りに大事にされてきた身としては、返答に詰まるところだ。

「……お前の『男装』、久々に見た。あたしの『女装』に合わせたの?」

ひとめで男と判る装いは、美穂がこちらに来た当初以来だ。
あの時は一緒にいる自分も少年のような出で立ちであったが、今日は違う。

足さばきに不安があったため、下はひざ丈の筒袴だが、上は華やかな柄とたっぷりの(たもと)がある振り袖。さらに、(かもじ)なる付け毛で髪を長く見せている。

自分でいうのもなんだが、蝶にでもなったような気分だ。

「さしづめ、可愛い姫君に心を奪われた公達(きんだち)って設定かしらね」
「…………こういうカッコ、ずっとしてるほうが、良い?」

美穂の前にひざまずいて、こちらをのぞきこむ青年は、言葉づかいを抜かせば確かに『公達風』な装いと所作だ。

いたずらっぽい表情が美穂の問いに対し一変し、彼が意表をつかれた時に見せる『素』の顔をさらす。
< 60 / 66 >

この作品をシェア

pagetop