神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
一瞬のち、困ったように笑った。

「その答えは、悪いけどアタシはもっていないわよ? 良いか悪いかは、アンタが決めることじゃない?」
「なんだよ、それ」
「逆に」

言いながら、あでやかな美貌の青年が立ち上がり、美穂を無表情に見下ろしてくる。

「アンタはアタシに、ずっとこの格好をしていろって、思うの?」

いつもは垂らしている波打つ赤褐色の長い髪は、(たて)烏帽子(えぼし)のなか。緋色の狩衣に、黒い指貫(さしぬき)
どこから見ても男の装いだ。普段の彼の姿ではない。

「……いまのソレ、カッコいいけど、お前の『普通』じゃない」

身長差から、自然上目遣いになると、見下ろす青年の表情がやわらぐ。

「『普通』のままで、いい」

言い切った瞬間、ぎゅっと抱きしめられた。

「可愛い!」
「…………は?」
「ごめんね、美穂。正直言って、アタシの目に映るアンタはどんな格好をしていても、可愛いの。
だから、アンタはアンタの好きな格好をしていればいいわ」

だけど、と。
自分を抱きしめる青年の腕がゆるみ、大きな手のひらが両頬にそえられた。思いきり、仰向かせられる。
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