神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜

《二》間違えて召喚すんなっ!




下総ノ国(しもうさのくに)”。
それが、いま美穂がいる場所の名前だというのが、男が最初に語ったことだった。
国とは言っても、美穂が知る国名ではないのは確かだ。

近隣に、“安房(あわ)ノ国(のくに)”と“上総ノ国(かずさのくに)”があると知り、ようやくそれが、美穂の感覚でいう『地名』なのではないかと思い至った。

(安房とか上総なら、聞き覚えがあるし)

安房鴨川、上総一ノ宮。
それは、美穂が住んでいた県にある駅名だ。

「アタシは、この“下総ノ国”の“国獣(こくじゅう)”……“神獣(しんじゅう)”とも呼ばれる存在なの。
アタシの本当の姿(・・・・)は、覚えているかしら?」

試すように美穂を見る男───セキコの問いに、美穂は右の足裏をさすった。
痛む訳ではないのにそうしたのは、そこに赤い“(あと)”があるからだ。

獣が残した爪痕。三本の赤い筋。思い起こされる、目の前の青年の正体。

「…………虎男」
「そう。記憶は残ってるようで、安心したわ」
< 9 / 66 >

この作品をシェア

pagetop