神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
《二》間違えて召喚すんなっ!
“下総ノ国”。
それが、いま美穂がいる場所の名前だというのが、男が最初に語ったことだった。
国とは言っても、美穂が知る国名ではないのは確かだ。
近隣に、“安房ノ国”と“上総ノ国”があると知り、ようやくそれが、美穂の感覚でいう『地名』なのではないかと思い至った。
(安房とか上総なら、聞き覚えがあるし)
安房鴨川、上総一ノ宮。
それは、美穂が住んでいた県にある駅名だ。
「アタシは、この“下総ノ国”の“国獣”……“神獣”とも呼ばれる存在なの。
アタシの本当の姿は、覚えているかしら?」
試すように美穂を見る男───セキコの問いに、美穂は右の足裏をさすった。
痛む訳ではないのにそうしたのは、そこに赤い“痕”があるからだ。
獣が残した爪痕。三本の赤い筋。思い起こされる、目の前の青年の正体。
「…………虎男」
「そう。記憶は残ってるようで、安心したわ」