「恋愛ごっこ」してください!―可愛い義理の妹が仕掛けてくる!

第13話 美幸がクラブで盗難にあった―そのあとラブホに泊まって「恋愛ごっこ」を始めることになった!

6月ももう終わりに近くなった。27日(木)に美幸は今年入社組の同期会があるので遅くなると言って出勤した。僕は8時過ぎにお弁当を買って帰ってきた。いつもは早く帰った方が夕食を作って待っているのだが、今日は美幸が夕食をパスしていた。

お風呂に入ってから、ウイスキーの水割りを作って飲んでいる。父さんが好きなジョニ黒の水割りだ。美幸が遅くなる時は必ず起きて待っている。いままで10時より遅くなることはなかったので心配になる。

10時半を過ぎて電話が入った。美幸からだった。いつもならLINEのメールだけど、どうしたのだろう。

「美幸です。お兄ちゃん、すぐに来て、盗難にあったから」

「分かった。すぐに行くから、そこは何処?」

「新宿のクラブにいます」

「場所が分かるか?」

「分からないわ」

「店の人に替わって」

店の人に替わって貰って、店の名前と場所を確認した。美幸には小1時間で着くからそのまま待っているように言っておいた。すぐに着替えてマンションを飛び出した。気が気でない。駅に着くとちょうど電車が来たので飛び乗った。

そのクラブに着いたのは11時半少し前だった。美幸はしょんぼりして僕を待っていた。僕の顔をみると安心したみたいで、抱きついてきた。僕もしっかり抱き締めた。盗難だけで済んだ。美幸の身に何事もなくて本当によかった。

「ごめんなさい、迷惑かけてしまって」

「いいんだ、僕は美幸を守ると心に誓っているから」

二人は気の済むまで抱き合っていた。周りの人が見たら兄妹が抱き合っているようには見えなかったと思う。どれくらい抱き合っていたのか分からない。ほんの短い時間だったかもしれない。でも僕はそれがとても長い時間のように思えた。

「それよりどうしたんだ」

「二次会で皆とここへ来て、貴重品をロッカーに入れておいたのだけど、帰ろうとすると、ロッカーの扉が開いていて、中身が無くなっていた。鍵のかけ忘れかもしれない」

「店の人に言ったのか?」

「店の人に相談したけど、どうしようもなくて」

それから僕は店の人と話したが、警察に届けるように言われた。会計は同期が済ませてくれていた。美幸は兄が来るからと帰って貰ったと言っていた。

それから店の近くの交番へ行って盗難の被害届を出した。バッグの中には、財布に現金2万円ほど、健康保険証、運転免許証、マイナンバーカード、銀行のキャッシュカード、クレジットカード、ほかに化粧ポーチなどが入っていたという。幸いスマホはロッカーに入れずに持っていた。

キャッシュカードとクレジットカードはすぐに止めないといけないと言われたので、発行元に電話をかけて停止の手続きをした。それらを終えたら12時近くになっていた。

そして渋谷に着いた時には電車で高津までたどり着けなくなっていた。タクシーで帰る方法はあるが、タクシー乗り場は長い行列ができている。

美幸はどこかへ泊まろうと言う。近くのホテルを調べて電話してみたが、すべて満室だった。

「お兄ちゃんはラブホに泊まったことはあるの?」

「飯塚さんと1回だけ泊まったことがあるけど」

「どうだった」

「どうだったって、一晩泊まっただけだけど、お風呂もあるし、掃除も行き届いていて清潔だった」

「ラブホテルなら空室があるかもしれない。一度泊まってみたかったから丁度いいかも。探してみない」

美幸はネットで調べてどんどん歩いて行ってしまう。ついて行くしかない。ラブホテル街に入った。やはりほとんどが満室だったが、空室があるホテルを見つけた。

美幸について入っていく。ほとんど無人の手続きを経て部屋にたどり着いた。こんなことになろうとは思わなかった。でももう二人はすっかり疲れていたので、すぐにベッドに腰かけた。美幸が僕の方を見て話しかけた。

「今日は迷惑かけて本当にごめんなさい。それとお兄ちゃんにお願いがあるの」

「お願いってなに?」

「丁度よい機会だから、パパとママが結婚する前にしていたという『恋愛ごっこ』を私と始めてほしいの、本当の恋愛じゃなくて、まねごとの『恋愛ごっこ』でいいから、お願い」

「こんな時に、こんな場所でどうして」

「どうしてって、私のお兄ちゃんへの気持ちを確かめたいから、お兄ちゃんとしてではなくて、一人の男性として好きかどうかを」

「美幸もそう思っていたのか、僕も美幸を妹としてではなく、一人の女性として好きか確かめてみたいと思っていた」

「やはり兄妹として長く一緒に暮らしていたから考えることは同じなのね。じゃあ、いいのね」

「そうだね。もう始めてもいい時なのかもしれない」

「じゃあ、シャワーを浴びて来ます。汗をかいたから」

これから美幸はどうするつもりだろう。まあ、「ごっこ」だから考えすぎか?

美幸がバスタオルを身体に巻いて出てきた。それを横目で見て僕がバスルームに入った。新宿へ急いだこともあって僕もずいぶん汗をかいていた。熱いシャワーが気持ち良い。シャワーを浴びるとすっきりした。

ベッドに戻ると美幸はもう布団の中に入っている。

「お兄ちゃん、早く来て」

僕は下着姿で布団に入った。どうも美幸も下着だけになっているみたいだった。

「盗難にあったときのことを思い出すと今でも怖くて身体が震えて眠れないから、抱いて寝てくれないかな、そうしてくれたら安心して眠れるから、お願い」

「美幸を抱いて寝るのか?『ごっこ』には入っていないと思うけど」

「小さい時は抱いて寝てくれていたでしょう。だから『ごっこ』に入ると思う」

「まあ、美幸が安心して眠れるなら、いいか」

すぐに美幸が抱きついてきた。ちょっと寝苦しい。

「美幸、向きを変えて、後ろ向きになってくれないか? 後ろからなら抱きやすいし、僕も寝やすいから、そうしてくれないか」

「分かった」

美幸は背を向けて身体を丸くした。これなら抱いて寝ても眠れる。それに美幸を抱いて守っているような気持ちになれる。美幸の身体の温もりが伝わってくる。美幸もそれで満足したのか、すぐに寝息を立てた。美幸の髪の匂いがする。僕の好きな匂いだ。僕も疲れていた。それですぐに眠りに落ちた。

朝、目が覚めたら、美幸はこちらを向いて僕に抱きついていて腕の中にいた。寝顔が可愛い。しばらく見ていると目を覚ました。時計を見るともう始発が動きだす時間になっていた。

二人はあたりをうかがってホテルを出て帰ってきた。僕たちの先を同じ朝帰りのカップルが歩いて駅に向かっていた。

6時にはマンションに到着した。それから、着替えをして、朝食を食べた。美幸は会社で今回の盗難の手続きをしなければいけないと早めに出勤した。
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