【金こそパワー】ITスキルで異世界にベンチャー起業して、金貨の力で魔王を撃破!

27. 0.5秒よ

「ソ、ソリスさんも毎日忙しいですか?」

 タケルは話題をソリスに振った。

「あら、暇よ?」

「えっ!? Sランクって引く手あまただと思うんですが……?」

「逆よ逆。私が出ていくような大事件なんてそうは起こらないわ。私が忙しいくらいだったらこの世界滅びかかってるわよ」

 ソリスは余裕の笑みを浮かべ、クッキーをポリっとかじった。

「あ、強すぎて出番がない……ってことですか?」

「そうよ? 例えばAランクパーティが私に襲いかかってきたとするじゃない? どうなると思う?」

「パーティということは、四、五人が一斉に襲い掛かるってことですよね……。結構いい勝負になりそうですが……」

「0.5秒よ」

「は……?」

「そんな奴ら全滅まで一秒もかからないわ」

 ソリスはニヤリと笑いながら、ブラウンの瞳の奥に不気味な漆黒の炎を揺らめかせた。

「え……?」

 タケルはゾクッと背筋に冷たいものが走る。馬鹿なと思いながらもその瞳の奥に秘められた圧倒的な力には、冗談で言っているのではないと思わされるものがあった。

 なるほどSランクというのは次元が違うのだ。どんなに鍛え上げた人たちが束でかかっても、人知を超えた技で葬り去ってしまうのだろう。

「そ、そんな方に護衛を頼むなんて失礼……でしたね」

 タケルは冷汗を浮かべながら言った。

「ううん、暇よりはずっといいわ。それに、高額なお手当。感謝してるのよ?」

 ソリスはニコッと笑い、お茶をすすった。


          ◇


 やがて麦畑は終わりを迎え、向こうに森が見えてくる。馬車は緩やかな傾斜をパッカパッカと力強く登っていった。

「そろそろ見えるはずよ」

 ソリスはそう言いながら馬車の窓を開ける。

「えっ!? まだ先ですよね?」

「ふふっ、道はそうよ。でもほら……」

 ソリスが指さした先、木々の向こうには断崖絶壁の上に古びた石柱が何本もそびえ立って見えた。多くは折れ、倒れてしまってはいるが、昔はかなり大規模で荘厳な建造物だった面影が見える。

「ほわぁ……」

 タケルは思ったより巨大な遺構に思わず胸が高鳴った。あの中に魔法を使った形跡が残っていればきっとITスキルで抽出できるに違いない。それはきっと見たことも聞いたこともない未来を切り開くキーとなるのだ。

「どう? 何にも残って無さそうでしょ?」

 ソリスは無駄足だと言いたげに小首をかしげたが、タケルはニコッと笑った。

「いやいや、自分には宝の山に見えますよ」

「あら、そう? ならいいけど……」

 ソリスはそう言ってクスッと笑った。


      ◇


 徐々にキツくなってくる坂道を馬たちは頑張って登っていく。

 周りの木々も太く大きくなってきて、薄暗くなってきた頃、御者がドウドウと馬を止めた。

「さて、行きましょうか!」

 元気に下車したタケルは下草の茂る鬱蒼とした森に唖然とする。

「あ、あれ……。こ、ここですか?」

「そうよ? 遺跡に行く人なんてほとんどいないんですもの。登山道はすぐこうやって草に埋もれてしまうわ」

「ほ、本当にここ……進むんですか?」

 クレアは今にも泣きそうな顔で静かに首を振った。

「あら、お嬢ちゃんは馬車で待ってていいわよ? ふふっ」

 ソリスはちょっと意地悪な笑みを浮かべる。

「だ、大丈夫です!!」

 クレアはそう叫ぶと、先頭を切って藪に突っ込もうとした。

「ストッーープ!!」

 いきなりソリスは野太い声で叫ぶ。その言葉に込められた圧倒的な威圧感にクレアはビクンとして固まった。

 背中に背負っていた大剣を、重厚な金属音を響かせながら引き抜くソリス。

 いきなり戦闘態勢に入ったソリスにタケルたちも何事かと戦慄を覚えた。

「お嬢さん、ちょっとどいて……」

「は、はいぃぃぃ」

 クレアは青くなってピョコピョコと飛びのいた。

 ふぅぅぅぅ……。

 静かに呼吸を整えるソリス。彼女の纏う緊迫感がタケルたちにもひしひしと伝わってくる。

 はぁぁぁぁ!

 大剣が徐々に光を帯び、黄金に輝き始めた。

 一体何が起こるのかと一同は顔を見合わせ、緊張が高まったその時だった。

 はっ!!

 掛け声とともにソリスが消えた。

 へっ!?

 何が起こったか分からず、一瞬みんな凍り付く。

 直後、森の奥でソリスが大剣を横に振り切っているのが木々の間から垣間見えた。

 刹那、光の刃が飛び出し、森の草を、木々を吹き飛ばしながら軽やかに飛んだ――――。

 プギィィィ!

 断末魔の叫びが森に響き渡る。イノシシか何かだろうか、相当大物のようだ。

 タケルは初めて『0.5秒よ』と言っていたソリスの言葉を理解した。例えAランクパーティでもこの攻撃を避けることはできないだろう。これがSランクなのだ。

 あまりにもけた外れの存在にタケルはブルっと身震いをし、Sランクを敵に回してはならないと心に誓った。

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