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66. 星間の狂風の弟子

「ほう?」

 シアンは嬉しそうにタケルの方を見てニヤリと笑う。

「我々はただ、理不尽に殺された少女を生き返らせたい、ただそれだけなんです!」

 タケルは今までのこと、どうしてもクレアを生き返らせたいということを切々と語った。

「まぁ、そんなことだろうと思ってたんだよネ」

 シアンは肩をすくめ、つまらなそうに首を振る。

「見逃してください! お願いします!」

 タケルは必死に頭を下げる。ここで否定されたらもはやクレアは生き返らないし、自分たちは重罪人で処罰されてしまう。どうしても見逃してもらうしか手がなかった。

 しかし、シアンは碧い目をギラリと光らせ、腕で×印を作る。

「ダーメッ! 人を生き返らせたい、それはみんな思うの。でも、そのたびに生き返らせていたら世界は大混乱だよ? 世界を健全に保つには新陳代謝が必要。これは鉄則だゾ!」

「そこを何とか!!」

「ダメったらダメ! これは厳格な規則なの!」

 完全に拒絶されてしまって、タケルには道がなくなった。もちろん、彼女の言うことは正しい。死んだ者を生き返らせるのは世界にとって禁忌だろう。だが、だからといってクレアの死を受け入れるわけにはいかない。シアンの納得できる条件とは何だろうか? タケルは必死に考え、究極の条件を思いつく。それはタケルの出せる最後の条件だった――――。

「だったら……。等価交換……させてください」

「等価……交換……?」

「そうです。僕の命を……彼女の命に代えてください」

 タケルはシアンの目を真っ直ぐに見つめ、全ての想いを乗せて言い放った。

「お、お主! 何を!」

 ネヴィアが慌てて止めに入る。

「クレアは僕のために死んだんだよ! 生き返るならこの命は惜しくない!」

 タケルは自然と湧いてくる涙を押さえられず、ポロリとこぼした。

「本気……? あなた死ぬのよ?」

 シアンは首を傾げ、タケルの顔をのぞきこむ。

「本気です! 嘘は言いません!!」

 タケルはまっすぐにシアンの青い瞳を見つめた。

「ふぅん……、なるほど……ね。凄まじいまでの想いだ……」

 シアンはそのタケルの覚悟に少し驚いて、大きく息をついた。

「だ、だったら……」

「でもダメよ。例外は認められない」

 シアンは申し訳なさそうに首を振る。

「何とか、何とかお願いしますぅ……。クレアがいない人生なんて耐えられないんですぅ……」

 タケルは泣き崩れた。失って分かったクレアの大切さ。心の奥にはクレアの笑顔がたくさん詰まっており、今までタケルはクレアの笑顔によって生かされていたのだ。

「なんだ、面倒くさい奴だな……」

 シアンは口をキュッと結ぶと大きくため息をつき、空中に画面を浮かべて何かを調べていった。

「ほぉ……。へぇ……。なんと! ははっ、お前面白い奴だな!」

 画面を食い入るように見つめながら、シアンは楽しそうに笑う。

 何が楽しいのか良く分からないタケルは、泣きはらした目でシアンを見た。

「お前、僕の弟子になれ!」

 シアンはタケルの肩をポンポンと叩くと、ニヤッと笑った。

「へ……? で、弟子……ですか?」

「弟子であれば僕の身内だ。身内の大切な人を生き返らせたくらいなら、誰も文句言わないよ?」

「え……? い、いいんですか?」

 タケルは目を大きく見開き、思わず立ち上がる。

「女神様がね、君を転生させたの、なんだか分かる気がしたんだ。君には何かがありそうだ。でも、弟子ってことは、僕の言うこと何でも聞くんだゾ?」

 シアンはいたずらっ子の笑みを見せながら、タケルの涙でグチャグチャの顔をのぞきこんだ。

「は、はい! 何でも聞きます! よろしくお願いします。」

 タケルはまぶしい笑顔を浮かべ、シアンの手をギュッと握った。

「お主! これは凄い事じゃぞ! 星間の狂風(アストラル・クイーン)シアン様の弟子と言ったらもはや誰も逆らえんぞ!」

「くふふふ……。でも、僕が『死ね』って言ったら死ぬんだぞ?」

 シアンは邪悪さの漂う笑みを浮かべる。

「えっ……? くぅぅぅ……、わかり……ました……」

 タケルは弟子になることの重大さに唇を噛み、うなだれた。この破天荒な少女の要求は軽く常識を超えてくるだろうことは想像に難くない。しかし、クレアを生き返らせるためにはなんだって受け入れるしかないのだ。

「これで一件落着! 弟子一号君、よろしく! うししし……」

 シアンは楽しそうにパンパンとタケルの肩を叩いた。


        ◇


「ところで、シアン様はなんであんな所にいたんですか?」

 ネヴィアが少し不満げに聞く。

「えっ!? あー! 忘れてた!」

 シアンはポンと手を叩くと、上空をキョロキョロと見回し始めた。

「なんかねー、テロリストがあの貨物船に何かを仕込んだらしくてね……。お、あいつかな?」

 シアンは空の一点を凝視し、うなずくと空中に画面を開いて何やら計算し始めた。

 その方向には何やら光る点がゆっくりと動いて見える。

「どうやら貨物船も大気圏突入段階に入ったようじゃな……」

「ふんふん、じゃ、この辺りでいっかな……」

 シアンは両手を前に出し、目をつぶると何かをぶつぶつと唱え始めた。すると、向こうの方で何やら竜巻が渦を巻き始める。

「竜巻だ……、竜巻で一体何を……?」

 シアンは何やら楽し気にぶつぶつとつぶやき続ける。

 タケルはネヴィアと目を合わせ、首をかしげた。

 竜巻はどんどんと大きく成長し、やがて上の方に大きな水の球を形成していく。それは海王星のうっすらと青い輝きを反射して碧く美しく輝いた。
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