純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
照明が薄暗いから、表情は分かりにくい。かおりたちの歌声のおかげで、ため息をついても気づかれない。
私は眉間にしわを寄せながら、はあっと深いため息をついた。
帰りたいな……。
一次会の店でまったく会話にならなかったから、高原に話しかける気はもう起こらなかった。カラオケは好きだけれど、無愛想な彼の隣では歌う気にもなれない。
楽しそうなのは、かおりと前田だけだ。
私はちらりと横目で高原を見た。
彼も歌うつもりはないのか、曲に合わせて流れるモニターの映像をただ眺めている。
その横顔を見ながら、自分のことを棚に上げて思う。
どうしてこの人も帰らないんだろう。謎だわ――。
ふっとため息をついて、私は視線をかおりたちに戻した。
彼らの歌声をBGMにしながら、間を持たせるように少しずつ少しずつカクテルを口に含む。早く終わりの時間にならないものかと腕時計に目を落としたが、まだ30分以上もある。
今日だけでもう何度目かのため息をついた時、次の歌のイントロが静かに流れ出した。そのタイミングで、まったく予期していなかった声が近くで聞こえた。
「歌わなくてもいいのか?」
驚きすぎて、私は口に含みかけていたカクテルを吹き出しそうになった。慌ててハンカチで口元を押さえる。
高原が今、普通に話しかけてきたような気がしたのだが、幻聴だろうか。一次会の時とは別人のようだ。
私は恐る恐る、ぎこちない動きで、高原の方へ顔を向けた。