純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
「怖いか?」
私は首を横に振る。
「そうじゃなくて……。こんな風に流れに乗ってる感じ、夢を見てるみたいでふわふわしてるというか」
「夢みたい、って佳奈がそう言うのは、確か二回目だな」
「そうだった?よく覚えてるのね」
「佳奈のことはなんでも覚えてるよ。それなら――夢じゃないって実感できるように、一緒に住むところ、探さないか?」
「え?」
「ここに一緒に住んでもいいけど、せっかくだから新しい部屋の方がいいのかなと思ってるんだ」
「お家に入った方がいいんじゃないの?」
おずおずと訊ねる私に、宗輔は軽く肩をすくめた。
「佳奈がそうしたいのなら、それでもいいけど。部屋はあるからな。でもそうなると、夜はあんまり鳴けないぜ」
「夜?鳴く?」
きょとんとする私に、宗輔はにやっと笑う。
「佳奈の鳴き声が聞けなくなるのは、つまらないんだよな」
言っている意味をようやく悟って、私は熱くなった頬を手で覆った。
「変なこと言わないで」
くすくす笑いながら、宗輔は言った。
「俺としては、できるだけ長く佳奈と二人で過ごしたい。うちの親たちと一緒に住むっていう選択肢は、今のところはまだないな」
「宗輔さんと、社長たちがそれでいいなら……」
「いずれそういう時が来たら、それは考えるってことで。今は――」
宗輔は私の体に腕を回すと、座っていたソファの上に私をゆっくりと倒した。
「しばらく会えないんなら、もっと佳奈を味わっておきたいんだけど」
「しばらくって言っても、二日くらいでしょ」
「その二日が長いんだよ」
私は手を伸ばして宗輔の唇に触れた。
「明日の朝になったら、私をちゃんと部屋まで送って行ってくれる?」
「本当は嫌だけど、仕方ないな」
宗輔は、鼻の頭に軽くしわを寄せた。
それを見て私はくすっと笑うと、彼の首に手を回した。それを了解の合図と理解した彼のキスを受けて、私は甘い吐息で応えた。
ーーその翌朝。
宗輔は約束通り、私をアパートまで送り届けてくれた。私が建物の中にまで入ったのを確かめてから、車を走らせ去って行く。
エントランスのガラス越しに彼を見送って、私は急いで部屋に戻るとバタバタと帰省の準備をする。身支度を済ませて駅に向かい、食べる物を適当に買い込んでから、無事に電車に乗り込み実家へと向かった。