純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
私は父の傍まで寄ると言った。
「お父さん、今日はありがと。また来るからね。今度は美味しいお酒持ってくるから、私と一緒に飲もうね」
私と――そこを強調して言うと、父の表情が少しだけ明るくなったように見えた。
「そうか、待ってるぞ。えぇと……高原君」
父が数歩前に出て、母の隣に立った。
「はい」
宗輔はすっと背筋を伸ばして、父に向き直った。
「今日はわざわざ来てくれてありがとう。……佳奈を、頼みます」
そう言って頭を下げる父の声が、微かに震えているように聞こえて、私は思わず涙ぐみそうになった。結婚するのはまだ先のことだ、と少しだけ顎を上げて涙を散らす。
宗輔は、私の父を、母を、順に真っすぐな目で見ると、しっかりとした口調で言った。
「色々とご心配なのは十分に承知していますが……佳奈さんのことは私にお任せください。――正式なご挨拶は、また改めて伺います。慌ただしくて申し訳ありませんが、今日はこれで失礼します」
「うん。高原君のご両親にも、どうぞよろしく伝えてください」
「ありがとうございます。――そろそろ行こうか」
宗輔が私の背に手を添えた。
「えぇ。――それじゃ、お父さん、お母さん、また来るね」
こうして、私の両親と宗輔の初対面は無事に終わった。
帰りの車で、私は宗輔の横顔に礼を言う。
「今日は、色々とありがとう。うちの親たち、きっと安心したと思う」
「ちゃんと認めてもらえたのか、心配だけどな……」
「大丈夫よ。だって、お父さん、ありがとうって言ってたもの。私のこと頼むって……」
「そうだな。また、二人で来ような」
「うん。――次は、明日ね」
「あぁ、悪いな」
「全然悪くなんかないわ……ふわぁ……」
思わずあくびが出てしまって、私は慌てて口元を隠した。
宗輔はくすっと笑いながら、ちらと横目で私を見て言った。
「疲れたんだろ。寝てていいぞ。着いたら起こしてやるから」
暖房の温かさと車の振動に加えて、一大イベントの一つを無事にクリアしたという安心感もあったのだろう。運転してくれている宗輔に申し訳ないとは思ったが、素直に彼の言葉に甘えることにして、私は目を閉じた。