純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
席に案内されて間もなく、料理が順に運ばれてくる。飲み物以外、宗輔が予約しておいてくれたらしい。
しかし今夜も宗輔は、車だからとアルコールを口にしなかった。
「佳奈は飲んでいいんだからな」
その言葉に、私は首を振った。
「それなら、宗輔さんの部屋で一緒に飲みましょ」
宗輔は微笑みながら頷いた。
「そうだな」
料理を味わい、言葉を交わしながら、私はそわそわしていた。なんとなくだが、宗輔の様子がいつもと違うように思えたのだ。何か言いたいことがあるのに、なかなかそのタイミングがつかめないでいる――そう見えた。
私はデザートを口に運びながら、そっと彼を見た。目が合う。
ふうっと静かに息を吐くのが聞こえたと思ったら、宗輔が急に居住まいを正し、私の名前を呼んだ。
「佳奈」
「は、はい」
心なしか緊張さえ感じる声音に、私まで緊張が伝染する。
もしかして――。
私は水を一口飲むと、手を膝の上に置いて宗輔の顔を見た。
宗輔は私を真っすぐに見つめると、ひと呼吸ほど置いてから口を開いた。
「今日、改めて言わせて。――早瀬佳奈さん、私と結婚してください」
「あ……」
そういうことなのだろうと予感があったのに、言葉がなかなか出てこなかった。返事は一つしかないし、迷っているわけでもないのに、言葉が喉の奥に張り付いた。代わりに涙がこぼれて、つうっと頬を伝い落ちた。
「どうして泣くんだ」
戸惑うように宗輔の目が揺れた。
「ご、ごめんなさい。嬉し涙よ。色々思い出されて、なんだか感動しちゃって」
「なんだよ、脅かさないでくれ。ここまで来て、嫌だとか言われるのかと思って焦ったよ。――プロポーズの返事、もらえないか?」
今ここに人目がなかったら抱きつきたい衝動を抑えながら、私は宗輔に笑顔を見せた。
「――はい。よろしくお願いします」
「ありがとう」
ほっとした顔をして、彼は私の前に小さな箱を置いた。
「――これ、受け取ってもらえるか」