純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

新年会


年が明けて、新年会を開くのは、我が支店の定例行事の一つだ。この支店の新規立ち上げの時に、私は久美子と一緒に採用されたのだが、それから毎年にように行われている。

ちなみに、今回の幹事役は大宮に決まったらしい。地元民の久美子や戸田に、おすすめの店などを相談していた。

私の本心は、大木のことがあるから参加したくなどなかったが、そういうわけにもいかないだろうと諦めていた。

当日は皆が全員早めに仕事を切り上げて、いつもはあちこち飛び回っている支店長も、帰りが遅い営業職たちも、次々と会社に戻ってきていた。

店までは適当にタクシーに分乗して行くことになった。私たち女性組は三人まとまって、男性組より先に会社を出た。

タクシーの中で、ドライバーの耳を気にしながら久美子が小声で言う。

「今日の飲み会、みんないるから大丈夫だとは思うけど、あの人には気をつけなさいよ」

あの人というのは、もちろん課長の大木のことだ。

「さすがに支店長もいるし、大丈夫でしょ」

不安は皆無ではないが、いくら大木でも支店長がいる場では大人しくしているだろう。

「そうだといいんだけど……」

眉をひそめる久美子に私は言った。

「できるだけ久美子たちといるわよ。大宮さんとか、他の人もいるし、きっと大丈夫。心配してくれてありがとね」

「ん……。でもそうね。万が一何か仕掛けてきたら、支店長もいるわけだから、ある意味チャンスかもしれないし」

「なるほどね……」

そんなことはないに越したことはないが、そういう考え方もあったかと変に感心してしまった。

前方に目的の店が見えてきたと思った時、助手席に座っていた戸田が振り返った。

「着きましたね。行きましょうか」

そう言ってから、私を励ますように拳を握ってみせた。

「私もいますから、大丈夫ですよ!」

「ありがと」

三人揃って店に入ると、奥の座敷席に案内された。

通路を歩きながら、私は久美子の背中に向かって言った。

「ここ、初めて来るわ。久美子はよく来るの?」

「よくってわけじゃないけど、旦那がここ好きでね。それに、実は結構有名なのよ。美味しくて安いって」

「私も今回、久美子さんから聞いて初めて知ったんです。今度彼と来てみようかな」

そんな雑談を交わしながら部屋に上がった私たちは、出入口近くの席に座って男性組の到着を待った。
< 116 / 138 >

この作品をシェア

pagetop