純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
やや遅れて、支店長を先頭に男性組がやって来た。
「お疲れ様です」
頭を下げる私たちに、支店長はにこやかな笑顔を向けた。
「君たちと飲むのも久しぶりだね。席にいないことが多くて申し訳ない」
「いえ、そんな……」
幹事の大宮が、支店長と課長の大木を上座の席に促す。
「お二人は前の方にどうぞ。あとの皆さんは、ご自由にお好きな席へお願いします」
それを合図に皆が適当に席につく。すると計ったようなタイミングで店のスタッフがやって来て、テーブルに瓶ビールとウーロン茶、料理などを並べて行った。
「まずはビールとウーロン茶で乾杯ってことでお願いします。飲み放題で予約したんで、後で適当に飲みたい物、注文入れてください。皆さん、グラスは手元にありますか?――それでは支店長、音頭、よろしくお願いします」
こうして、大宮の流れるような仕切りで新年会は始まった。
私は久美子と戸田の近くにいたこともあって、身構えていたような「悪いこと」が起きそうな気配はなかった。
上座ということで大木は支店長の傍にいたし、二人の前には主任をはじめとして、他の営業職たちが入れ代わり立ち代わり、酒を注ぎに行っている。
私の隣に座る久美子が、サワーを飲みながらしみじみと言う。
「うちの職場って、お酌文化がないのがいいわよね。ゆっくり飲めるわ」
「確かにね。それどころか……」
その先を言う前に、支店長がビール瓶を片手に私たちの所へやってきた。
ここでは支店長が自らこんな風に、部下たちに酌をして回ったりするのだ。最初は抵抗があったが、ご本人が気にするなというものだから、今ではそんなものかと受け入れてしまっている。それは多分に支店長のお人柄もあるのだろう。なぜなら、大木などは赴任してきたばかりの時、自分の歓迎会で見たこの光景にひどく驚いた顔をしていたから。
「おや、みんなサワーか何かを飲んでいるのか。じゃあ、このビールはいらなかったな」
「それなら、支店長、いかがですか?お注ぎしますね」
戸田がそう言って、近くにあった未使用のグラスを支店長に渡し、そこにビールを注いだ。