純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
支店長はグラスに口をつけてから、私たちの顔を順繰りに見て言った。
「三人とも、いつもありがとう。君たちがしっかりと仕事を回してくれているおかげで、営業の連中も代理店さんたちも、ものすごく助かっているよ。君たちの対応がいいと、代理店さんたちからはお褒めの言葉を頂いているよ」
「恐れ入ります」
私たちは揃って頭を下げた。
「普段ゆっくり話す機会を取れなくて申し訳ない。でも何かあったら、なんでも相談してくれよ」
「なんでも、ですか……?」
支店長の言葉尻を捉えて、戸田が顔を上げた。ちらりと私の顔を見る。
「そうだよ。皆んなには、気持ちよく長く働いてほしいと思っているからね」
「ありがとうございます。何かあったら、ぜひご相談させていただきますね」
久美子もちらりと私の顔を見て、支店長ににっこりと笑いかけた。
支店長が他の席に移動していってから、久美子と戸田は顔を見合わせた。
「何でも、って言ってましたね」
「言質取ったね」
「早瀬さん、例の件は落ち着いているみたいですけど、大丈夫そうですか」
「そうね。まだたまに嫌がらせ的な指示なんかはあるけど、まぁ、なんとか」
「それならよかったです。だけど何かあったら、次は支店長に即相談ですよね」
「できれば、このまま異動していただけるといいんだけどね……」
周りが賑やかなのをいいことに、私たち三人は顔を寄せ合うようにしながら話をしていた。するとそこに、大宮がグラスを片手にやって来た。
「三人で何こそこそ話してるの?」
私たちはぱっと離れて、大宮を見た。
「何って、女子同士の話ってのもあるんですよ。少しは察して下さいよ」
久美子がわざとらしく大宮にウインクしながら言った。
「うわっ、北山さんのそういうの、似合わないわ……」
「大宮さん、殴られたいんですか?」
久美子が拳を握るのを見て、大宮はあははと笑う。
「冗談だよ。冗談。それよりさ、早瀬さん、最近何かいいことでもあった?」
大宮が私の方をまじまじと見て言った。
「え?いえ、別に何も」
「ふぅん、そうなんだ?なんか綺麗になったなぁ、って思って見てたんだよね。いや、別にこれまでが綺麗じゃなかった、とかいう意味ではなくてね」