純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
やっとお役御免だな――。
そう思いながら店を出る。そこで解散ということになって、私はほっとした。
「それじゃあ、私はこれで。今夜はどうもありがとう」
私は作り笑いを浮かべて、誰に言うでもなく礼を言った。
「高原、途中まで送っていってやれよ」
前田がそんなことを言い出したが、私は聞こえないふりをした。
途中までとはいえ高原と一緒に帰るなんて、ぜひとも遠慮させていただきたい。
「かおり、また連絡するね」
そう言うと私はくるりと背を向けて、彼らから離れた。そのまま繁華街のわき道へと入って行く。
行く先は決まっていた。
飲食店がいくつか入るビルの階段を登って、私は奥まった所にある木のドアを押し開いた。
カランカラン。
耳になじむドアベルの音が響く。
オレンジ色の照明に出迎えられて足を進めると、奥から声がした。
「いらっしゃいませ」
私はその声に向かって歩いて行き、カウンターの前で足を止めた。周りを見ると、店の奥の二人掛けのテーブルにカップルが一組。楽しげな様子で顔を寄せ合っていた。
「や、いらっしゃい!」
カウンターの内側で、グラスを磨いていたマスターがにっこりと笑みを浮かべた。
「あれ?一人なの?」
私は苦笑いを浮かべた。
「はい。すみません、売り上げに協力できなくて」
「あははは。大丈夫大丈夫!で、一杯目は何がいい?」
「モスコミュール、お願いします」
私はそう注文すると、空いていたカウンターの壁際のスツールに腰を下ろした。